ヴェランド
ヴェランドは北部の小さな村に生まれ、その地で育った。村全体が非常に質素であり、貧困の中、彼の家族は日々の糧を求めて励む日々を送っていた。ヴェランドも痩せた小さな少年で、村の人々は彼を「テルマーダの細い枝」と呼び、その小柄な体格とやや弱々しい雰囲気に特別な運命を感じる者はいなかった。
エストラヴィンの恐怖
崇願期428年、突如として大陸の北部に現れた強大な畏き者エストラヴィンがヴェランドの人生を大きく変える。エストラヴィンは北部地域を蹂躙し、村々を滅ぼしていった。その獰猛な姿と破壊の力は多くの国や都市を恐怖に陥れた。
ヴェランドがまだ17歳の若者であった430年、エストラヴィンは彼の故郷テルマーダを襲撃。彼の家族や親しい友人たちは命を落とし、彼自身も重傷を負った。村の焼け跡の中で目を覚ましたヴェランドの心には、深い絶望と怒り、そして復讐の誓いが生まれた。
畏き者ベセー
ヴェランドはエストラヴィンへの復讐の旅の中で、暗黒の森の奥深くにて畏き者ベセーと遭遇する。ベセーはその名を轟かせる畏き者の中でも珍しく、人と言葉を交わし、特に欲深く、狡猾であり、小馬鹿にした嘲笑を絶えず浮かべていた。しかしヴェランドに出会った時、その表情には驚きと興味が浮かんだという。
ヴェランドの何かを気に入ったベセーは、彼に三つの恩寵を与えることを提案する。しかしそれには代償が必要だった。ベセーはその身体の三つの部位を捧げるよう要求した。それは、彼の左目、右腕、そして心臓の一部であった。
ヴェランドはエストラヴィンへの復讐のため、そして自らの運命を大きく変える力を手に入れるため、ベセーの要求を飲み込む決意をする。自らの左目をえぐり、右腕を切り落とし、そして自らの胸を切り裂き、心臓の一部をベセーに捧げた。これらの犠牲と引き換えにベセーから強力な三つの恩寵を授かった。それは、時をずらす力、死者との対話する力、そして身体を再生する力であった。
71日間の死闘
長い旅の果ての崇願期444年、英雄となっていたヴェランドはついにエストラヴィンと対峙した。その戦いは71日間に渡って続き、戦いの場となった一帯は全てが崩れ去ったという。
ヴェランドはベセーからの恩寵の一つ、死者との対話能力を駆使して、戦場で命を失った者たちの声を聞きながら戦った。彼らの悲しみや怒り、そしてエストラヴィンへの復讐の炎を胸に、ヴェランドは次々とエストラヴィンの軍勢を倒していった。彼の身体はエストラヴィンの強大な力の前に幾度となく砕かれたが、恩寵によって身体を再生し、砕かれながら進み続けた。
死闘の最終局面、ヴェランドはベセー最大の恩寵、時をずらす力を用いた。エストラヴィンの巨体の時をわずかにずらして引き裂きながら、凝集した存在の核を暴き出した。そしてその核を一瞬のうちに削り取り、ついにエストラヴィンをこの世から永遠に消滅させた。
この壮絶な死闘の後、ヴェランドの名は永遠の英雄として語り継がれることとなり、彼の伝説は後の時代に数々の詩や物語、そして学術的な研究の対象として永遠に輝き続けることとなった。
シャロヴィアの建国
エストラヴィンを消滅させた後、ヴェランドはその力と名声を背景に、新たな王国シャロヴィアを建国した。死闘の舞台となった荒廃した地帯を再生し、新しい希望の地として興したものが土台となった。シャロヴィアはヴェランドの公正で寛大な統治のもと、多くの民から支持を受け、瞬く間に繁栄を迎えた。
王国の統治において、ヴェランドは再び死者の声を活用した。彼は亡くなった者たちの声を聞き、彼らの願いや未練を解消することで国内の安定を保った。また亡き者たちの知識や経験を活かし、シャロヴィアの発展に貢献させた。この恩寵を背景とした統治は、また精強な兵ももたらし、大陸西方世界はシャロヴィアに次々と飲み込まれていった。
一統期への移行
シャロヴィアの繁栄は他国を圧倒し、やがて一統期への移行が始まった。ヴェランドはほとんどを交渉によって世界を統一する大業を成し遂げた。強大な畏き者を単独で倒せるヴェランドに、多くの王は跪いた。そして新たな時代、一統期へと世界は移った。ヴェランドの英明なる統治のもと、シャロヴィアはさらなる発展を遂げ全土は平和と繁栄の時代を迎え入れることとなった。
長寿と突然の死
ヴェランドはその生涯を通じて数々の栄光を手に入れ、シャロヴィアの統治者として世界に名を馳せた。しかしその栄光の中、突如として彼の生命は終わりを迎えた。公の場での急な崩御には、多くの疑問が投げかけられたが、真相は謎のままとなり、民間伝承や物語の中でさまざまな推測や伝説が語られることとなった。
ヴェランドの死後、葬送の前にその亡骸は突如として姿を消した。後に、ベセーによって奪われたことが明らかとなると、ベセー討伐の声が上がった。しかしベセーはそれ以降世界から姿を消してしまった。500年近い間、闇の森にも。
ルフォン王と恩寵
ヴェランドの後継者として即位したのは、彼の5人目の息子ルフォンであった。ルフォンは父の死とベセーによる亡骸の奪取に深い悲しみと怒りを抱えていたが、死者の声を聞く恩寵だけがなぜか彼にも授けられた。この恩寵を用い、ルフォン王はシャロヴィアの統治を堅持。父の遺志を継ぎつつ、新たな時代を築いていくこととなった。