ノルヴオス

巨大な鯨の姿を持つ、海洋と航海を司る畏き者

ノルヴオスは、大洋の深淵に棲む畏き者であり、その巨大な鯨の姿は、船乗りたちの畏怖と憧憬の対象となっている。海洋と航海を司るこの存在は、その吐く潮によって嵐を呼び起こし、また恩寵「海路の加護」によって航海の安全を守護する。

深淵より現れし巨鯨

ノルヴオスの姿を目撃した者は稀である。しかし、その伝説は海を知る全ての者の間で語り継がれている。その体長は最大の船をも凌駕し、その肌は海底の岩礁のように荒々しく、深い海の色を湛えているという。その目は、夜空に輝く星々のように無数に瞬き、まるで宇宙の深遠を覗き込んでいるかのようだ。

ノルヴオスが海面に姿を現す時、海は畏き者の存在を認識したかのように静まり返る。しかし、その静寂は長くは続かない。ノルヴオスが吐き出す潮は、たちまち猛烈な嵐へと変貌を遂げる。雷鳴が轟き、波は天を衝くほどに高く立ち上がり、風は悲鳴のように吠える。この荒々しい自然の猛威は、ノルヴオスの力の一端を示すに過ぎない。

海路の守護者

しかし、ノルヴオスは単なる破壊の化身ではない。この畏き者は、航海者たちの守護者としての一面も持ち合わせている。その恩寵「海路の加護」は、幾多の船を危険から救い、安全な航海を約束してきた。

この恩寵を得るには、船の進水式において、船長がその髪の毛を海に捧げなければならない。この儀式は、人間が海の力に対して敬意を示し、そして自らの身を委ねる決意の表れである。髪の毛は、古来より人間の魂や生命力の象徴とされてきた。それを海に、すなわちノルヴオスに捧げることで、船と乗組員の安全を託すのである。

儀式が受け入れられると、その船は不思議な守りに包まれる。激しい嵐も、その船の前では穏やかな波となり、危険な岩礁も、霧の中から姿を現して船を導く。さらには、風が常に帆を膨らませ、航海の速度を飛躍的に向上させるという。

畏怖と敬愛の対象

ノルヴオスの存在は、海に生きる人々にとって、畏怖と敬愛の入り混じった複雑な感情の対象となっている。その猛威は恐れられながらも、その守護の力は深く感謝されている。

ノルセリアの港町では、ノルヴオスを祀る神殿が数多く建てられている。その中では、巨大な鯨の骨で作られた祭壇が置かれ、船乗りたちが航海の無事を祈っている。また、古びた船の一部や、難破から救われた船員たちが奉納した品々が、ノルヴオスへの感謝の証として飾られている。

毎年、春分の日には「ノルヴォスの潮祭り」が盛大に催される。この日、港は色とりどりの旗で飾られ、海の幸を振る舞う屋台が立ち並ぶ。祭りの最後には、巨大な藁の鯨が海に流され、それが波に呑み込まれる瞬間、人々は声を合わせて航海の安全を祈願する。

伝説と現実の狭間で

ノルヴオスの実在を疑う声もある。それは単なる船乗りたちの想像の産物であり、海の危険を擬人化したものに過ぎないという主張だ。しかし、「海路の加護」を受けた船の航海記録は、その超自然的な守護の存在を強く示唆している。

また、深海を探査する潜水艇が、巨大な影を捉えたという報告も存在する。その映像は不鮮明ながらも、通常の鯨とは明らかに異なる、途方もない大きさの生物の存在を示唆している。

ノルヴオスの真の姿は、依然として謎に包まれている。しかし、その存在が海に生きる人々の心に深く刻まれ、彼らの生活や文化に多大な影響を与えていることは疑いようがない。海を渡る者たちは今日も、この深淵の主への畏敬の念を胸に、大海原へと漕ぎ出していく。