航海誌

ミアルヴァン海の不思議な航海記

『航海誌』は、七国期の探検家ノルヴァ・ルミオスが著した航海記録である。ミアルヴァン海の不可思議な現象と、未知の畏き者との遭遇を克明に記録し、七国の人々に新たな世界観をもたらした。

ノルヴァ・ルミオスは、ノルセリアの港町ゼクトラル・ハーバーで生まれ育った航海士である。幼少期から海への憧れを抱き、若くして海軍に入隊。その後、商船の船長を経て、探検家として名を馳せた。『航海誌』は、彼女が10年に渡って行った7回の大航海の記録をまとめたものである。

本書は、7つの章から構成されており、各章が一回の航海に対応している。ノルヵァ・ルミオスの冷静な観察眼と詩的な表現力が、未知の世界の驚異を生き生きと描き出している。

第一航海「時の渦」

ノルヴァ・ルミオスは、ミアルヴァン海南部に存在すると噂される「時の渦」を目指して出航する。航海の途中、彼女の船は突如として濃霧に包まれ、方向感覚を完全に失う。霧が晴れた時、彼女は驚愕する。船の船員たちの年齢が、乗船時と比べてばらばらに変化していたのだ。若返っている者もいれば、急激に老化している者もいた。

ノルヴァ・ルミオスは、この現象を畏き者ノルヴァ・ゼクトリュミアの影響だと推測する。彼女は、時間の流れが歪む海域の地図を作成し、後の航海者たちに警告を残した。

第二航海「歌う島」

第二の航海では、ノルヴァ・ルミオスは「歌う島」の伝説を追って、ミアルヴァン海西部の未知の海域に向かう。航海の途中、彼女の船は奇妙な旋律に包まれる。その音楽には、船員たちの心を惑わす不思議な力があった。

ノルヴァ・ルミオスは、強い意志力でこの誘惑に打ち勝ち、音楽の源を探る。そして彼女は、海面から姿を現した巨大な生物と遭遇する。それは、歌う畏き者サルヴァ・ミアルヵァンだった。ノルヴァ・ルミオスは、この畏き者と対話を試み、その歌が持つ力と目的について記録を残した。

第三航海「氷の迷宮」

第三の航海は、ミアルヴァン海北部の氷海を目指すものだった。そこで彼女は、常に形を変える巨大な氷山群と遭遇する。これらの氷山は、まるで意思を持っているかのように移動し、船の航路を妨害した。

ノルヴァ・ルミオスは、この現象を氷を司る畏き者ヴァルタリュクト・エルナミアの仕業だと考えた。彼女は、氷山の動きのパターンを観察し、その中に隠された法則を見出そうと試みた。この記録は、後の極地探検に大きな貢献をすることとなる。

第四航海「海底都市」

第四の航海では、ノルヴァ・ルミオスは、ミアルヴァン海の大干潮を利用して、海底に沈んだ古代都市の探索を行った。彼女は、海底に広がる巨大な建造物群を発見し、その建築様式から、それが畏き者ノルヴァ・サルヴァリュの宮殿であると推測した。

都市の中心には、巨大な水晶のオベリスクが立っており、ノルヴァ・ルミオスはそこに刻まれた古代の文字を記録した。この発見は、後の考古学者たちによって研究され、失われた古代文明の存在を示唆するものとして大きな話題となった。

第五航海「空飛ぶ魚の群れ」

第五の航海中、ノルヵァ・ルミオスの船は、突如として空を飛ぶ魚の大群に遭遇する。これらの魚は、通常の魚とは全く異なる姿をしており、空気中を自由に泳ぐように移動していた。

ノルヴァ・ルミオスは、これらの魚を捕獲して詳細な観察を行った。彼女は、これらの魚がエヴァリナを体内に蓄積する特殊な器官を持っていることを発見した。この現象は、畏き者ゼリュクト・ヴァルタ・ミアの影響下にある特殊な生態系の存在を示唆するものだった。ノルヴァ・ルミオスの記録は、後の生物学者たちによって詳しく研究され、エヴァリナが生物の進化に与える影響について新たな理論の基礎となった。

第六航海「幽霊船団」

第六の航海では、ノルヴァ・ルミオスは、ミアルヵァン海の「霧の海域」と呼ばれる地域を探索した。そこで彼女は、幽霊のように現れては消える古代の船団と遭遇する。これらの船は、まるで過去の一瞬が現在に漏れ出してきたかのようだった。

ノルヴァ・ルミオスは、これらの幽霊船に近づき、その様子を詳細に記録した。彼女は、この現象が畏き者エルナルヴァネの力によるものだと推測し、過去の記憶が現実世界に干渉する可能性について考察を行った。この記録は、後の時間研究者たちに大きな影響を与えることとなった。

第七航海「生ける渦潮」

最後の航海で、ノルヴァ・ルミオスは、ミアルヴァン海の中心に存在すると言われる巨大な渦潮を目指した。彼女の船が渦潮に近づくと、それが単なる自然現象ではなく、生命を持った存在であることが明らかになった。

渦潮の中心には、畏き者オヴァリュが存在していた。ノルヴァ・ルミオスは、自身の命の危険を顧みず、オヴァリュとの交信を試みた。彼女は、オヵァリュから海洋の深遠な知恵を授かり、それを詳細に記録した。この最後の章は、神秘主義的な色彩が強く、後の研究者たちに様々な解釈の余地を残すこととなった。

『航海誌』の公開は、七国に大きな反響を呼んだ。その斬新な発見と詳細な観察記録は、多くの学者たちの関心を集め、新たな研究分野の創出につながった。

ノルセリアでは、『航海誌』の記録を基に、より安全で効率的な航路が開発された。特に、「時の渦」を避ける航路は、長距離航海の標準となった。

フェダスの神官たちは、「歌う島」の記録に強い関心を示し、音楽の力を利用した新たな儀式を開発した。これは、畏き者との交信の新しい方法として注目を集めた。

イシェッドの自然哲学者たちは、「空飛ぶ魚」の発見を、エヴァリナと生命の関係を示す重要な証拠として受け止めた。彼らは、この現象を基に、新たな生命理論を構築した。

アヴィスティアの鉱山技師たちは、「海底都市」の建築技術に注目した。彼らは、この技術を応用して、より安全で効率的な地下鉱山の建設方法を開発した。

タルヴェイでは、『航海誌』の描写を基に、一連の壮大な海洋画が制作された。特に、「幽霊船団」を描いた作品は、幻想的な美しさで多くの人々を魅了した。

カレニアの占星術師たちは、「生ける渦潮」の記述から、新たな予言術を考案した。彼らは、海流の動きと星の運行を結びつけ、より精度の高い予言を行えるようになったと主張した。

ベロヴの農学者たちは、「氷の迷宮」の記録から着想を得て、寒冷地での新たな農業技術を開発した。彼らは、氷の動きを利用した独特の温室栽培法を考案した。

『航海誌』は、単なる冒険記録を超えて、七国の人々に新たな世界観をもたらした重要な書物となった。その詳細な観察と大胆な推論は、畏き者とエヴァリナについての理解を大きく前進させ、同時に、まだ知られざる謎の存在を人々に強く意識させた。

現在でも、『航海誌』に記された未確認の現象を追い求めて、多くの探検家たちがミアルヴァン海に船出している。ノルヴァ・ルミオスの残した航海記録は、新たな発見への扉を開く鍵として、今なお多くの人々を魅了し続けているのである。