オヴァネスの幻視録
畏き者オヴァネスの啓示を記した預言書
『オヴァネスの幻視録』は、七国期の預言者ゼクトラル・ルミオスが著した神秘的な預言書である。畏き者オヴァネスから直接啓示を受けたとされる幻視を記録し、七国の未来と世界の終末を予言している。
ゼクトラル・ルミオスは、タルヴェイの芸術都市ミアル・グリトで生まれた画家であった。彼は33歳の時、オヴァネス断崖で瞑想中に突如として畏き者オヴァネスと遭遇し、7日7晩に渡る幻視を体験した。『オヴァネスの幻視録』は、その体験を克明に記録したものである。
本書は、7つの章から構成されており、各章がオヴァネスとの遭遇の一日に対応している。その内容は極めて象徴的かつ難解で、解釈を巡って現在も議論が続いている。
第一の幻視「光の門」では、ゼクトラル・ルミオスが巨大な光の門をくぐり抜ける様子が描かれる。この門は、現実世界と畏き者の領域の境界を象徴しているとされる。門をくぐった瞬間、ゼクトラル・ルミオスの意識は急速に拡大し、時間と空間の概念を超越した状態に達する。
第二の幻視「七つの星」では、七つの輝く星が織りなす複雑な舞いが描かれる。これらの星は七国を表すと解釈されており、その動きは各国の盛衰を予言しているとされる。特に、一つの星が突如として消え去る描写は、いずれかの国が滅亡する可能性を示唆していると考えられている。
第三の幻視「血の海」は、最も不吉な予言とされている。大地が裂け、血の海が世界を覆い尽くす様子が克明に記されている。この幻視は、大規模な戦争や自然災害の到来を予言していると解釈されているが、一方で人類の意識の大きな変革を象徴しているという見方もある。
第四の幻視「金色の樹」では、大地から一本の巨大な金色の樹が生え、その枝が天空まで伸びていく様子が描かれる。この樹は新たな知識や技術の誕生を表すと考えられており、特にフェグスター技術の発展を予言したものだという解釈が有力である。
第五の幻視「踊る影」は、最も謎めいた章である。無数の人影が狂ったように踊り狂う様子が描かれているが、その意味するところは判然としない。一説には、人々が畏き者の影響から解放される瞬間を表しているという。
第六の幻視「鏡の迷宮」では、ゼクトラル・ルミオスが無限に続く鏡の迷宮をさまよう様子が記されている。各々の鏡には、過去、現在、未来の出来事が映し出されており、それらが複雑に絡み合っている。この章は、時間の概念そのものに対する問いかけだと解釈されている。
第七の幻視「新たなる夜明け」は、本書の結末を飾る最も希望に満ちた章である。長い闇の後、新たな光が世界を照らし出す様子が描かれている。この光は、人類と畏き者の新たな関係性の誕生を象徴していると考えられている。
『オヴァネスの幻視録』の公開は、七国に大きな衝撃を与えた。その預言の真偽を巡って激しい議論が巻き起こり、各国の政策にも影響を与えることとなった。
タルヴェイでは、本書に触発された芸術運動が起こり、幻視の内容を抽象的に表現した作品が多く生み出された。特に、「七つの星の舞」を題材にした巨大モビール彫刻は、タルヴェイの新しいランドマークとなっている。
フェダスでは、「血の海」の預言を恐れた為政者たちが、軍備の増強と防衛態勢の強化を進めた。これが周辺国との緊張関係を生み、皮肉にも預言の実現を早める結果となったという見方もある。
イシェッドの哲学者たちは、本書の象徴的な表現に深い関心を示し、新たな思想体系の構築に取り入れた。特に、「鏡の迷宮」の概念は、時間と空間に対する革新的な理論の基礎となった。
アヴィスティアでは、「金色の樹」の預言をフェグスター技術の発展と結びつけ、研究開発に一層力を入れるようになった。これが後の技術革新につながったとされている。
ノルセリアの航海士たちは、「七つの星」の運行を実際の星座に当てはめ、新たな航海術を開発した。これにより、未知の海域への探検が進み、交易路の拡大につながった。
カレニアでは、「踊る影」の描写から着想を得て、新たな祭祀舞踊が生まれた。この舞は畏き者の影響からの解放を祈願するものとされ、現在も重要な宗教儀式として執り行われている。
ベロヴの農学者たちは、「新たなる夜明け」の預言を農業の革新と結びつけ、新たな品種改良や栽培技術の開発に取り組んだ。これが後のベロヴの農業大国化の礎となったとされている。
『オヴァネスの幻視録』は、その難解さゆえに様々な解釈を生み出し続けている。預言の真偽はともかく、本書が七国の人々に与えた影響は計り知れない。それは単なる預言書を超えて、人々の想像力を刺激し、新たな思想や文化を生み出す源泉となっているのである。