ノルヴァ・サルヴァリュの恋歌

恩寵を持つ貴族たちの恋愛と政治の物語集

『ノルヴァ・サルヴァリュの恋歌』は、七国期の文豪エルナ・ミアルヴァンが著した物語集である。ノルセリアの宮廷を舞台に、恩寵を持つ貴族たちの複雑な恋愛模様と政治的駆け引きを描き、人間の欲望と畏き者の力が交錯する様を鮮やかに描写している。

エルナ・ミアルヴァンは、ノルセリアの港町ルミオス・ハーバーで生まれ、若くして宮廷に仕える機会を得た文学者である。彼女は宮廷での見聞を元に、全100話からなる『ノルヴァ・サルヴァリュの恋歌』を著した。この作品は、その艶やかな描写と鋭い人間観察で、七国中の読者を魅了し続けている。

物語の舞台となるノルセリア王国の宮廷は、畏き者ゼモーレの影響下にある。ゼモーレは恋と出会いを司る畏き者であり、その恩寵によって宮廷人たちは予期せぬ恋に落ちたり、運命的な出会いを経験したりする。しかし、その恩寵は常に代償を伴うものであり、しばしば悲劇的な結末をもたらす。

第一話「風に舞う花びら」

物語集の幕開けを飾るのは、若き貴族オヴァネス・ルミオスと踊り子ミア・ゼクトラルの恋物語である。オヴァネスは「風を操る」恩寵を持ち、ミアは「花と一体化する」恩寵を持つ。二人は舞踏会で出会い、オヴァネスの風とミアの花びらが織りなす美しい舞いに魅了されあう。しかし、身分違いの恋に周囲は猛反対。オヴァネスの叔父であるノルヴァ公爵は、ミアを遠ざけるため、彼女をサルヴァリュ諸島に追放する。

オヴァネスは風を操り、ミアを追って海を渡ろうとするが、畏き者ノルヴァ・サルヴァリュの怒りを買い、大嵐に見舞われる。一方、ミアは花と一体化する能力を使い、島々を渡り歩いてオヴァネスの元へ向かう。二人の愛は試練を乗り越え、最後には感動的な再会を果たす。しかし、その代償として二人は恩寵を失い、平凡な人間として余生を送ることとなる。

第五十話「月と太陽の舞踏」

物語集の中盤を飾る名作が、皇太子ゼンタ・ノルヴァと月の巫女ルナリ・ミアルヴァンの物語である。ゼンタは「太陽の光を操る」恩寵を、ルナリは「月の満ち欠けを操る」恩寵を持つ。二人は互いの力に惹かれあうが、昼と夜という相反する性質ゆえに、一緒にいることができない。

ゼンタとルナリは、年に一度の日蝕の日にだけ会うことを許される。彼らの逢瀬は、天体の運行そのものに影響を与え、時に異常気象や潮の狂いを引き起こす。ノルセリア王国の存続のため、二人は別れを決意するが、最後の日蝕の日、ゼンタは自らの命と引き換えに太陽の力をルナリに与える。これにより、ルナリは昼夜を問わず存在できる「薄明の女王」となり、ノルセリア王国を導く賢明な統治者となる。

第百話「海の向こうの約束」

物語集の最終話は、老航海士グリトリュ・サルヴァと人魚の姫ミアルヴァン・ノルヴァの物語である。グリトリュは「海図を現実にする」恩寵を持ち、ミアルヴァンは「海の生き物と話せる」恩寵を持つ。二人は若かりし日に出会い、愛を誓うが、種族の違いにより結ばれることはなかった。

老境に入ったグリトリュは、最後の航海に出る。彼は自らの想像力で描いた海図を現実にする能力を使い、伝説の島「永遠の楽園」を創り出す。一方、ミアルヴァンは海の生き物たちの力を借り、グリトリュの船を導く。二人は創られた楽園で再会を果たすが、それは同時に現実世界との永遠の別れを意味していた。

『ノルヴァ・サルヴァリュの恋歌』は、畏き者の恩寵がもたらす驚異的な力と、それに翻弄される人間の姿を描いた傑作である。恋愛を軸としながらも、政治、社会、自然との関わりなど、多岐にわたるテーマを扱っており、その奥深さゆえに、発表から数百年経った今もなお、多くの読者に愛され続けている。