エルナ譚
現実と幻想が交錯する騎士の冒険譚
七国期の作家ルミオス・サルヴァリュが著した冒険小説である。エヴァリナの影響で現実と幻想の境界が曖昧になった世界を旅する騎士エルナ・ヴァルタの奇妙な冒険を描き、人間の認識と現実の関係性を問いかける。
ルミオス・サルヴァリュは、ノルセリアの港町ゼクトラル・ホヴェンで生まれ育った作家である。彼は若い頃から様々な船に乗り込み、ミアルヴァン海の不思議な現象を目の当たりにしてきた。その経験が、現実と幻想が入り混じる『エルナ譚』の世界観の基礎となっている。
物語は、没落した貴族の末裔であるエルナ・ヴァルタが、古びた鎧と錆びた剣を手に、祖先の栄光を取り戻す旅に出るところから始まる。しかし、エルナが目にする世界は、彼の想像をはるかに超えた奇怪なものだった。
エルナが最初に出会ったのは、巨大化したルミオス・リンゴの木だった。その枝には、黄金のリンゴが実っており、一つ食べればあらゆる知識が得られるという。エルナはその木に登ろうとするが、枝が次々と伸び縮みし、決して手の届かないところへ逃げていってしまう。
次に彼が遭遇したのは、空飛ぶノルヴァ島だった。島の住人たちは重力を自在に操り、建物や道路が宙に浮かんでいる。エルナはそこで「上下逆転の舞踏会」に参加するが、天地が反転する感覚に耐えられず、吐き気を催して逃げ出してしまう。
エルナの旅は、このように現実離れした出来事の連続である。彼は畏き者ミアゼンタ・オヴァリュの磁場に捕らわれて金属の球体と化したかと思えば、畏き者グリトリュ・ソルナの干ばつの呪いで砂漠と化した海を船で航海する。
しかし、物語が進むにつれ、読者はエルナが目にする世界が本当に存在するのか、それとも彼の妄想なのか、判断がつかなくなっていく。エルナの祖先の栄光を取り戻すという目的も、次第に意味を失っていき、彼は単に不思議な世界を彷徨う旅人と化していく。
物語のクライマックスで、エルナは自身が畏き者エルナリオスの化身であったことを知る。彼の見ていた奇妙な世界は、実は畏き者の目を通して見た人間世界の姿だったのである。この衝撃的な真実に直面したエルナは、自身の存在意義を見失い、現実と幻想の狭間で彷徨い続ける。
『エルナ譚』は、その斬新な構成と奇想天外な描写で、発表当時大きな論争を巻き起こした。特に、主人公が畏き者であったという結末は、人間中心の物語に慣れていた読者に大きな衝撃を与えた。
一方で、この作品はエヴァリナ学者たちの間で熱心に研究されている。エルナの目を通して描かれる奇妙な世界は、畏き者たちの視点から見た人間世界の姿を表現しているのではないかと解釈されているのだ。
『エルナ譚』は、現実認識の相対性や、人間と畏き者の境界の曖昧さを問いかける作品として、今なお多くの読者を魅了し続けている。