ミナリ・セルティス・ヴァルタ

黄金の穂波を纏う豊穣の畏き者

ミナリ・セルティス・ヴァルタは、農耕と豊穣を司るセファ級の畏き者である。その姿は黄金の穂波と緑の葉を纏い、足跡には作物が芽吹くという。七国期において最も崇拝される畏き者の一柱であり、その恩寵「豊穣の約束」は農業国家の繁栄を支える礎となっている。

ミナリ・セルティス・ヴァルタの出現は、崇願期の終わり頃、大陸中央部の広大な平原地帯で最初に目撃された。当時、その地域は度重なる干ばつに見舞われ、飢饉の危機に瀕していた。伝承によれば、絶望に打ちひしがれた農民たちが最後の収穫物を燃やして天に祈りを捧げたその時、黄金の光に包まれた巨大な人型の姿が現れたという。

その姿は、成熟した穀物の穂波で形作られた体躯を持ち、頭には緑の葉の冠をいただいている。身長は諸説あるが、多くの記録では成人男性の10倍以上とされる。その眼差しは深い慈愛に満ち、微笑みは大地を潤す露のように優しいと伝えられている。

ミナリ・セルティス・ヴァルタの足跡には、即座に作物が芽吹くという不思議な現象が伴う。この奇跡は、畏き者の通過後に広大な不毛の大地が一夜にして豊かな農地へと変貌を遂げたという記録に残されている。また、その存在は単に作物の生長を促すだけでなく、土壌そのものを豊かにし、長年の耕作で疲弊した大地さえも蘇らせるという。

「豊穣の約束」と呼ばれるミナリ・セルティス・ヴァルタの恩寵は、農業に依存する国家や共同体にとって、まさに生命線となっている。この恩寵を得るためには、毎年の収穫祭において、その年の最上質の収穫物を儀式的に燃やして捧げなければならない。この儀式は、人間が畏き者に対して感謝と敬意を表すと同時に、来年の豊穣を祈願する重要な機会となっている。

恩寵を受けた地域では、作物の収穫量が驚異的に増加し、通常では考えられないほどの豊作が約束される。さらに、不作や害虫被害にも強い耐性を持つようになり、農業生産の安定性が飛躍的に向上する。この恩恵により、かつては貧困に喘いでいた地域が、豊かな農業国家として繁栄を謳歌するようになった例も少なくない。

しかし、ミナリ・セルティス・ヴァルタの恩寵は、必ずしも永続的なものではない。毎年の儀式を怠ったり、最上質ではない収穫物を捧げたりすれば、その効果は徐々に薄れていくという。また、過度な収穫や環境破壊を行えば、畏き者の怒りを買い、恩寵が突如として失われる可能性もある。このため、ミナリ・セルティス・ヴァルタを崇拝する社会では、自然との調和や持続可能な農業の重要性が強く説かれている。

ミナリ・セルティス・ヴァルタの信仰は、農業国家フェダスを中心に広く浸透している。フェダスでは、この畏き者を国家の守護神として崇め、その姿を王宮や神殿の壁画に描き、また黄金の穂波で作られた巨大な像を首都の中心に据えている。毎年の収穫祭は国を挙げての一大イベントとなり、王自らが儀式を執り行うことで知られている。

一方で、ミナリ・セルティス・ヴァルタの存在は、農業以外の産業を主とする国々にとっては、時として脅威と映ることもある。豊かな農業国家の台頭は、既存の力関係を覆す可能性を秘めているからだ。このため、七国期においては、ミナリ・セルティス・ヴァルタの恩寵を巡る外交的駆け引きや、時には軍事的衝突さえも発生している。

エヴァリナ学者たちの間では、ミナリ・セルティス・ヴァルタの本質について様々な議論が交わされている。ある者は、この畏き者を純粋な豊穣の化身として捉える一方で、別の者たちは、その存在が人間社会の農業への依存を深め、結果として自然のバランスを崩す原因になっているのではないかと危惧している。

近年、フェグスター技術の発展に伴い、人工的にミナリ・セルティス・ヴァルタの恩寵に似た効果を生み出す試みも行われている。しかし、これらの技術はまだ実験段階にあり、畏き者がもたらす恩寵の深遠さと安定性には遠く及ばないのが現状だ。

ミナリ・セルティス・ヴァルタは、人類に豊かな実りをもたらす慈愛深き存在であると同時に、自然の力と人間の営みの均衡を象徴する畏き者でもある。その存在は、七国期の世界に繁栄と葛藤の種を蒔き続けている。