オヴァネス断崖の風笛
神秘的な音色を奏でる楽器
オヴァネス断崖の風笛は、タルヴェイの職人たちが作り出す特殊な楽器であり、断崖を吹き抜ける風を受けると神秘的な音色を奏でる。その音色は畏き者イオヴァネスの声とも称され、芸術家たちを魅了し続けている。
オヴァネス断崖の風笛の起源は、群王期後期に遡る。伝説によれば、タルヴェイの音楽家ルミオス・ゼンタが、オヴァネス断崖での瞑想中に畏き者イオヴァネスの声を聴いたことがきっかけだという。彼はその声を再現しようと、様々な実験を重ね、ついに風笛を生み出したとされる。
風笛の構造は極めて複雑で、その製作には高度な技術が要求される。主に「月光石」と呼ばれる半透明の石材を中空に削り出し、そこに特殊な共鳴管を組み込む。さらに、畏き者イオヴァネスの加護を受けたとされる「風の羽」を取り付けることで、はじめて音が鳴るという。
風笛の最大の特徴は、演奏者の意図を超えた音色を奏でることにある。風の強さや方向、そして断崖の状態によって、音色は刻々と変化する。時に悲しげに、時に歓喜に満ちた音色は、聴く者の心を揺さぶり、時として啓示や幻視をもたらすとされる。
オヴァネス断崖には、「風笛の庭」と呼ばれる特別な場所がある。ここには数十の風笛が常設され、訪れる者は自由に音色を楽しむことができる。満月の夜には、タルヴェイの音楽家たちによる即興演奏会が開かれ、幻想的な音楽の饗宴が繰り広げられる。
風笛は、タルヴェイの重要な外交ツールともなっている。特別に調整された風笛は、他国の王侯貴族への贈答品として珍重され、時に国家間の緊張関係を和らげる役割を果たすこともある。
しかし、風笛の製作技術は極めて限られた職人にしか伝承されておらず、その詳細は秘伝とされている。近年、他国からの技術流出を懸念する声も上がっており、タルヴェイ政府は風笛の製作と輸出を厳しく管理している。